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■ 第169話 ■両替商って、結局何なのよ

▶ユダヤ人の多くは古くから商業や金融、両替商などで財を成してきたとよく耳にする。18世紀後半、フランクフルトのユダヤ人ゲットーから勃興して来たロスチャイルド家も元は古銭商や両替商を生業にしていた。「ヨーロッパの通貨はユーロ」と思っている若い人は想像が難しいだろうが、ユーロが導入されるまでのヨーロッパ旅行は超面倒臭かった。なんせヨーロッパにはちっちゃい国がいっぱいある上に各国が独自通貨を持っていた。カードを受け付けない飲食店も多かったので、現地で必要そうな額を相手国通貨に両替し何とかやり繰り。帰りの空港で免税品などを買って残った現金を使い果たすという職人芸を繰り返した。熟達していないと筆者のように使い残したフレンチフランやオランダのダッチギルダー、そしてトルコリラなど、紙くず同然の古い札を今も後生大事に抱えることとなる。

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▶このようにユーロ導入前も両替は厄介だったが、もっと昔のヨーロッパはそれと比較にならないくらいウルトラ面倒くさかった。最も分りやすい例として神聖ローマ帝国(今のドイツあたり)を見てみる。17世紀半ば、帝国内でカトリックとプロテスタントの揉め事を端に三十年戦争が起こった。ウエストファリア条約が結ばれて戦争は終わった。ハプスブルク家の勢いを削いだこの条約は「ハプスブルク家の死亡証明書」と言われる。同家はカトリックだったけど、各領邦に主権が認められカトリック、新教、好きな方にしていいよと決まった。ただし領民に選択権はなく領邦トップが決めた宗派に従わなくてはならない。領邦に主権が認められて良かったけど、ドイツ内に300近くの主権国家ができちゃった。

初期の頃のターラー銀貨ですが、何か?

▶日本でも江戸時代、200を超える諸藩が存在したけど各地に江戸幕府の直轄領(天領)が置かれて割と上手くコントロールしていたらしい。しかし神聖ローマ帝国は大親分的存在だったハプスブルク家が衰退し群雄割拠状態。で、領邦の多くが深く考えず銀含有量バラバラに独自通貨作ったもんだから両替大変。そこでチェコの山中で見つかった銀で作られたターラー銀貨を基準に各通貨の両替レートが設定された。しかし出回っている通貨の種類が多過ぎて両替は超難読パズル状態。イングランド造幣局長官だったニュートンですらドイツの両替レートの複雑さに閉口したという。

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▶ニュートンをも困らせた両替を各地で担ったのがドイツ各地にいた両替商、すなわちユダヤ人たちだ。金儲けを卑しい仕事と考えていたキリスト教徒は銭勘定が得意ではなかった。なので異教徒のユダヤ人にほぼ丸投げした。彼らはこの複雑怪奇な両替システムを理解した上で、次第に金融を支配するようになっていく。財を成し、一般ドイツ人には忌み嫌われたが国家財政を担う存在として王侯貴族たちに重宝がられた。ロスチャイルド家はドイツ諸侯最大の資産家ヘッセン選帝侯ヴィルヘルム1世の宮廷御用商人となり、莫大な資金を運用して巨万の富を得た。帳簿が複雑すぎて誰も理解できないのをいいことに結構、間を抜いて大儲けしたと言われる。後に銀行界を牛耳るようになるロスチャイルド家の素地はこういったドイツの複雑な両替事情の中で磨き上げられたと言ってもいい。ちなみにヨーロッパ中で流通していたこのターラーがオランダでダルアダーに変化し、その後アメリカでダラー(ドル)となったと知って驚き次号に続くぜ。チャンネルはそのままだ。

週刊ジャーニー No.1291(2023年5月18日)掲載

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