
■ 第168話 ■戴冠式、感動したあの瞬間
▶昨年6月に行われたエリザベス女王の在位70年を祝うプラチナ・ジュビリーと9月の国葬、そしてチャールズ新国王の戴冠式。わずか1年ほどの間に英王室の3つの巨大イベントに間近で立ち会うことができた。英国で今後しばらくこれだけのイベントが行われる予定はない。戴冠式そのものは個人的にとても感動した瞬間がある。国王の周辺に逆ホタルが多かったことではない。チャールズ国王が王権の象徴と言われるレガリアの王笏(おうしゃく)と宝珠(ほうじゅ)を抱えた瞬間だ。
▶王笏は装飾的な杖のことで紀元前のペルシャあたりで既に王の象徴として使われていたらしい。宝珠は世界を象徴する球体に対し、キリストの印である十字架の支配権を象徴しているという。つまり地球を支配するキリスト教の象徴を国王が手の内に収めるという意味合いでクリスチャン以外が知ったら単純に「あら素敵」とは言いづらくなる品物。式次第は変遷して来たろうがこの儀式は脈々と続いて来たものだ。筆者はエリザベス1世戴冠式の肖像画を思い出し、一人勝手に感動した。

▶英王室史はとても興味深い。1066年、ノルマン人に征服されて出来たのがイングランド最初の統一王朝ノルマン朝だ。イギリス人は認めたくないだろうがこれはフランス系の王朝だ。イングランドを征服したノルマン人貴族はみなフランス語を話した。国王はほとんどフランスで過ごした。聖職者はラテン語、そして被征服者であるアングロ・サクソン人は英語を話した。ノルマン朝が途絶えるとプランタジネット朝となった。超フランス風の名前。その後、フランス本国との間に百年戦争が勃発。ある意味、フランス諸侯同士の内戦だ。100年も戦っているうちにイングランドではアングロ・ノルマン的気運が高まり、貴族も2世、3世となり徐々にフランス色が希釈されていく。百年戦争に敗北すると内紛「ばら戦争」が勃発。それが終結するとヘンリー8世やエリザベス1世といった怪物スターを排出するチューダー朝が誕生した。エリザベス1世が子を残さず亡くなるとスコットランドから遠縁のジェームズ1世が呼ばれてきてスチュアート朝となった。しかし息子のチャールズ1世が王権神授説を唱えて議会を無視。やりたい放題やったため議会と激突。やがて清教徒革命が起こりチャールズ1世は捕縛され、首を刎ねられイングランドは共和制となった。
▶王政を打倒したクロムウェルは独裁者となった。人々は「何だよ、共和制になったら暮らしが良くなると期待してたのに、結局一緒じゃん。快楽は堕落とか言って娯楽は全廃。夜は家で聖書読めってか。王様いた時の方がましだったんじゃね?」と国民の不満爆発。クロムウェルが死ぬとフランスに亡命していたチャールズ1世の子たちを呼び戻して王政が復古した。スチュアート朝最後のアン女王が子を残さずに死んだ。プロテスタントの血縁者を探していたらハノーバー選帝侯に辿り着いた。そこから縁戚関係にあったジョージ1世を招いて王に据え、今に繋がるハノーバー朝が始まった。なので今の王室はドイツ系。ジョージ1世はイングランド治世に興味なし。ドイツを離れず「適当にやっといて」と議会に丸投げ。国民呆然。おかげで責任内閣制が進んだ。このように王政に不満を持つ人は昔からいっぱいいた。英王室が今後、どうなるのか興味津々。超長生きして最後まで見届けてやるぜと誓いつつ次号に続くぜ。チャンネルはそのままだ。
週刊ジャーニー No.1290(2023年5月11日)掲載
他のグダグダ雑記帳を読む