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■ 第165話 ■国境を持たない国

▶フォード自動車の創立者ヘンリー・フォードは第1次世界大戦が終わってすぐの1920年、「国際ユダヤ人」を書き上げた。筆者は昭和2年(1927年)に発行された同書の日本語解説本「世界のユダヤ人網」をゲット。ページをめくってボー然とした。100年近く前に翻訳されたもので日本語がやたら古い。国名都市名全て漢字。ユダヤ人は猶太人、スペインは西班牙、ベルリンは伯林。言葉遣いも書体も古い。解読の大変さは原書とさして変わらない。1ページ目から辞書との格闘となり、わずか数ページで眠りの妖精に誘われて轟沈。それから1年。ルターを調べているうちに再びこの資料が目の前に現れて立ちはだかった。もはや逃げられない。半べそかきながら読破した。

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▶読み終えてみるとこれが単なる反ユダヤ主義的な本ではないことが分かった。フォードがこれを書き上げたのは第1次世界大戦終結から2年後のことで、ユダヤ史を絡めてなぜドイツが敗北したのか、等を分析した研究本だった。ユダヤ人は2千年ほど前に祖国を追われて散り散りとなり、一部がヨーロッパ各地に流れ着いた。フォードは各国で迫害を受けながらもユダヤ人が商業や金融業で力を蓄え、君主や領主の周辺に食い込んで地位を確立していく様子をエンジニアならではの探求心を持って丹念に調べ上げている。スペイン、オランダ、イギリス、フランスの栄華と衰退。第1次世界大戦末期にロシアとドイツで起こった革命。これらの裏で暗躍するユダヤ人の姿が克明に描かれている。ユダヤ人を嫌悪していたフォードが悪意をもって作り上げたフィクションではない。ユダヤ人の類まれな知性と行動力に敬意を払いつつも、その動向を警戒するフォードの心情が浮き彫りになる。

「世界のユダヤ人網」表紙ですが、何か?

▶読み進むうちに己の無知が恥ずかしくなってきた。特にドイツにおけるユダヤ人史は、第2次世界大戦時のホロコースト程度しか知らず、そこに至るまでのプロセスに目を向けて来なかった。ドイツにおけるユダヤ人とは祖国を追われて逃れ来て、迫害されて強制収容所に送られた気の毒な弱者だけではなかった。フォードはドイツの第1次世界大戦敗北の裏に弱者ではないユダヤ人の姿を見る。そして彼らがいつしか作り上げた決して地図に描かれることのない「汎ユダヤ国」の存在に辿り着いた。「汎ユダヤ国」の首都はかつてパリにあり、その後ロンドンに移動。そしてドイツへの復讐を終えた彼らは今(1920年)、いよいよニューヨーク遷都を企んでいると警戒している。

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▶「国家」というものを深く考えたことはないけど何となく「一定の領土と国民を備えた組織共同体」みたいな感覚があった。しかしフォードは固有の領土を持たない国家が存在すると言い切る。土地や持ち家があれば人はこれを必死に守らなくてはならない。侵略されれば激しく抵抗する。しかし賃貸であれば火災で全焼したり、津波に流されたとしても悲嘆に暮れる大家を横目に次の賃貸先に移動するだけだ。第1次世界大戦を経てヨーロッパほぼ全域が疲弊した。荒廃したヨーロッパを見切り、彼らは豊かなアメリカを目指した。フォードはこの書を通して「ニューヨークを汎ユダヤ国の首都にしてはならない」と警鐘をガンガンと鳴らした。それがこの書「国際ユダヤ人」だ。同書がアメリカで発禁に追い込まれたのはその内容があまりにも核心を突いていたためと推測する。筆者だけが面白がって次号に続く。でも、チャンネルはそのままだぜ。

週刊ジャーニー No.1287(2023年4月20日)掲載

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