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■ 第111話 ■スエズ運河買収のヤバイ裏話

▶かつてイギリスにディズレーリという小説家兼首相がいた。ヴィクトリア女王が即位した翌月の1837年7月、4度の落選を経て庶民院(下院)入りを果たした。アヘン戦争、クリミア戦争、南北戦争、薩英戦争など地球各地で火の手が上がる中、政治家としてのキャリアを積んだ。大蔵大臣を経て1868年と1874年の2度に渡ってイギリスの首相となった。ヴィクトリア女王は初めディズレーリを嫌悪していた。ところがある日ディズレーリが女王に提出した報告書が小説のように面白かったため女王は興味を抱き、やがてディズレーリを寵愛するようになった。人たらしの幕開け。

▶第2次ディズレーリ内閣が発足した翌年の1875年、ロスチャイルド家の情報網に掛かった極秘ネタがディズレーリの元に届けられた。財政難に苦しむエジプトがスエズ運河の株を売却しようとしておりフランス系銀行2行と交渉中という内容だった。スエズ運河はフランスが提唱、エジプトと共同で造ったものだ。イギリスはインドへの通商路が侵されることを嫌って建設に反対した。それでも建設工事は始まった。イギリスは「作業員の扱いが奴隷的だ」と難癖をつけ、現地人に反乱を起こさせるなどして工事の妨害をした。1869年、スエズ運河開通。使ってみると喜望峰ルートより遥かに時間が短縮できた。スエズ運河を最も利用したのは厚顔にも建設に猛反対し、妨害までしたイギリスで運河利用船舶数の8割を占めた。清から紅茶をイギリスに運んでいたカティサークなどの高速クリッパー船は運河開通でお払い箱となった。イギリスはスエズ運河も「欲し~の」になっちゃった。その垂涎のスエズ運河株が売りに出されたというのだ。巨額投資となる。ディズレーリは当然、議会に諮らねばならなかった。ところが…。

ディズレーリ
ご紹介いただいたディズレーリですが、何か?

▶ディズレーリは議会ではなく「ヴィクトリア女王の金庫番」と呼ばれるロスチャイルド家2代目当主ライオネルの邸宅に向かった。翌日ライオネルは400万ポンド(現在の700億円近く)をキャッシュで用意。イギリスはスエズ運河の株式44%の取得に成功、筆頭株主となった。借金の担保は英国政府。議会に内緒でロスチャイルド家から多額の借金をし、フランスを出し抜く形でスエズ運河を手に入れたことに野党党首グラッドストンらは猛反発。ディズレーリは涼しい顔でヴィクトリア女王に「全て上手く行きました。これでスエズ運河はマダム、あなた様のものです」と報告する一方でロスチャイルド家の功績を称えた。ヴィクトリア女王は政府が担保になっているとも知らず膝を叩いて喜んだ。人たらしの天才。女帝さえハッピーにしておけば周囲なんかノー問題。イギリスの野党も議会も置き去りにされた。翌年、ディズレーリは女王によりビーコンズフィールド伯爵に叙され、貴族となった。

▶ディズレーリはDisraeliと綴る。先祖がスペインで迫害されイタリアに逃れた際、苗字にDを足したが、元々はIsraeli(イスラエリ)。ユダヤ人だ。祖父の代に渡英。当時、異教徒はイギリスで公職につけなかったため13歳の時に英国国教会に改宗し政界入り。投資に失敗して巨額借金を抱えたがロスチャイルド家に拾われ同家の側近となり、大英帝国初のユダヤ人首相となった。帝国主義の幕開けと言われるイギリスのスエズ運河買収劇。実際は議会すら知らないところでたった2人のユダヤ人が主導し、完遂した。全体像が見えてきたところで次号に続く。チャンネルはそのままだぜ。

週刊ジャーニー No.1231(2022年3月17日)掲載

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