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■ 第109話 ■女王陛下の金庫番

▶ヴィクトリア女王が即位する前年の1836年、ロンドンのロスチャイルド家初代ネイサンが急死した。58歳だった。長男ライオネルの結婚式に参列するために赴いていた故郷フランクフルトで倒れ、あっという間に死んだ。毒殺説もある。世界一の大富豪の死に世界は驚いた。ネイサンの遺体はロンドンまで運ばれ、王室並みの盛大な葬儀が執り行われた。ネイサンの跡は長男のライオネルが継いだ。

▶ヴィクトリア女王は大英帝国が世界中で悪さして七つの海を制した頃の君主だが、ヴィクトリアの後ろには常にこの2代目ライオネルとその長男ナサニエルがピッタリと影のように寄り添っていた。ロスチャイルド家は陰で「ヴィクトリアの金庫番」と呼ばれるほど王室べったりだった。ヴィクトリアは親切で頼りになるロスチャイルド家が独自に作り上げた高速通信網を何も疑うことなく利用していた。そのためヴィクトリアの、そして大英帝国の動向は全てロスチャイルド家に筒抜けになっていた。ヴィクトリア21歳の時、イギリスが清に戦争を仕掛け、勝利した。アヘン戦争だ。インドでアヘン作って売っていたのはユダヤ系サスーン商会。そのアヘンを清から買う紅茶や絹、陶磁器の支払いにあてていたのがロスチャイルド家の代理人ジャーディン・マセソン商会だ。私企業が仕組んだあまりにも汚い戦争だったため英議会も紛糾。でも、得たものが巨大だったので最後はみんな黙っちゃった。子どもがスーパーで万引きして来たコロッケを「万引きはダメでしょ~。犯罪でしょ~」と文句言いながら「ま、美味しいから、いいか」と家族全員で舌鼓を打っているような美しい光景だ。ある日突然多額の賠償金と香港が転がり込んできた。ヴィクトリアも悪い気はしなかったはずだ。その2年後の1844年、ピール銀行条例が可決され、ロスチャイルド家のフロント企業と化していたイングランド銀行が通貨発行権を独占する中央銀行となった。通貨発行権の掌握はロスチャイルド家の悲願。その第一歩となるのがこのピール銀行条例だった。その後、ヨーロッパの中央銀行が次々と彼らの手に落ちていくことになる。しかし恐らくヴィクトリアはそれが何を意味するのか、未来にどんな禍根を残すか、他の国民同様、全く理解していなかったはずだ。「ライオネルたちに任せておけば全てうまく行く。いい金庫番見つけたわ~。私の人徳でしょうね、ウフッ」くらいに思っていたのかもしれない。

ライオネル・ロスチャイルド
若い頃のライオネル・ロスチャイルドですが、何か?

▶1847年、ライオネルはユダヤ人社会の要請でシティ・オブ・ロンドン選挙区から出馬し当選した。王室を完全に手なずけた今、国や法を動かす力をつける必要があった。議会入りするにあたり英国国教会式宣誓を求められた。ライオネルはこれを拒絶しユダヤ教式宣誓に固執した。すでに丸め込まれていた庶民院議員らはユダヤ教式宣誓を容認した。しかしユダヤ人を議会に入れたくない貴族院は頑としてこれを拒絶した。その後も選挙があるたびに出馬し、当選するもののその度に貴族たちの妨害にあった。ようやくユダヤ教式宣誓が認められたのは初当選から11年後のこと。ところがライオネルはほぼ議会に出席することはなかった。彼の狙いは同胞ユダヤ人が議員になるための道を拓くことだった。事実、その後の庶民院にはユダヤ人議員がジワ~ッと増えていく。庶民院が陥落した。次は貴族院の番だ、というところで次号に続く。そろそろ飽きただろうけど出来たらチャンネルはそのままね。

週刊ジャーニー No.1229(2022年3月3日)掲載

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