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■ 第75話 ■正義なきアヘン戦争

▼歴史というのは騙し絵のようで、見る者の角度によって浮かんでくる姿が刻々と変化する。教科書に書かれている記述をそのまま鵜吞みにすると本当の歴史は見えてこない。ちなみに鵜呑みって、鵜(う)が鮎などを丸呑みにするところから来ているが、鵜飼いの歴史は古くて日本書紀や古事記にも登場するらしい。鮎を味わうことなく丸呑みする鵜もヤバいけど、鵜が飲み込んだ魚を取り上げる人間もかなりのもんじゃないか? まるで植民地で作らせた砂糖やら綿花やらを取り上げてブクブクに肥えたかつての大英帝国のようだ、なんて言ったら鵜飼いで生計立てている方々にぶっ飛ばされそうだから言わないけどさ。

▼イギリスが清に仕掛けたアヘン戦争というとんでもなく汚い戦争があった。かいつまんで言う。イギリスは清から大量のお茶や磁器などを買っていた。ところが清がイギリスから買うものなどほぼ皆無。イギリスは銀で支払いをしていたため、貿易不均衡によりたちまち銀が枯渇した。そこでイギリスは銀の代わりにアヘン、つまり麻薬で支払うことにした。この時すでに清国内ではアヘンが蔓延しており、大量のアヘンを必要としていた。清はイギリスにシャブ漬けにされた。さすがに清政府もアヘンの全面禁輸を断行し、イギリス人商人が保有していた大量のアヘンを没収して処分した。これに怒ったイギリスが海軍を派遣して海岸部の都市にドッカンドッカン砲弾を送り込んだため、清は震え上がって南京条約を結んだ。処分したアヘンの賠償から開港、そして香港割譲など、清にとって何一つ面白くない結果に終わった。1842年のことだ。

ウィリアム・ジャーディンですが、何か?

▼やり口がほとんどヤクザなイギリスだが、一体なんで清をシャブ漬けにできるほど大量のアヘンを持っていたの? その秘密は大英帝国の植民地、インドにある。ここに2つの商社が登場する。ひとつはデビッド・サスーンというユダヤ人が始めたサスーン商会。サスーンはバグダッドで生まれ、元は交易で利益を上げていた。ところがユダヤ教徒が迫害を受け始めるとボンベイに移動。そこでアヘンと出会った。サスーンは東インド会社からアヘンの独占販売権を得て清に売りつけて莫大な利益を上げた。もう一つはジャーディン・マセソンという商社だ。創業者のウィリアム・ジャーディンはスコットランド出身の医者で、東インド会社に船医の職を得た。ボンベイで貿易に眼をつけたジャーディンは同郷のジェームズ・マセソンと清の広州市にジャーディン・マセソン商会を設立。アヘンなどの密貿易を始めて莫大な利益を上げた。それまで商品を売って銀を受け取っていた清だが、大量のアヘンを買わされる羽目になり、銀の大逆流が始まった。これを問題視した清は貿易の締め付けを始めた。これに怒ったジャーディンは清に圧力をかけさせるためロンドンに向かった。ジャーディン不在の知らせを聞いた清政府は鬼の居ぬ間に大量のアヘンを没収して処分した。この報を武器にジャーディンは英政府の説得に成功。海軍の派遣が決定された。それが時の首相グラッドストンが「不義の戦争」と呼んだアヘン戦争だ。

▼正義なき戦争と知りつつ英議会は海軍を派遣し、戦争に勝利した。サスーンとマセソンらはアヘンで稼いだ莫大な資産を早く安全にイギリスに移すために新しい銀行を作った。香港上海銀行(現HSBC)の誕生だ。清がイギリスに敗れたことを知り、江戸幕府が震え上がったところで次号に続く。日本もしっかりやられちゃう。チャンネルはそのままだぜ。

週刊ジャーニー No.1195(2021年7月1日)掲載

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