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【台湾編 43皿目】高菜とひき肉の中華まん

 
石田ゆうすけ
旅行作家。
7年半かけて自転車で世界一周を敢行。9万5千キロ、87ヵ国を走り、2002年末に帰国。現在は全国各地で講演も行う。著書に『行かずに死ねるか!』『地図を破って行ってやれ!』ほか。2014年2月に最新刊『大事なことは自転車が教えてくれた』(小学館)を上梓。ブログも更新中→「石田ゆうすけのエッセイ蔵

 

東海岸の海は相変わらず別天地のようにきれいなのだが、それはやはり人が少ないからでもあるのだろう。なかなか人家が現れない。道路沿いにはヤシやソテツがうっそうと茂り、ジャングルのような濃い緑が続く。ほかに目に入るのは海と、人気のない茫洋たる浜だけだ。道路がなければまるで無人島である。台湾がこんなに自然の宝庫だったとは想像もしなかった。

そんな寂しいところで日が暮れ始めた。少し焦りながらペダルの回転を上げる。山中で夜になって、獣やトラックにヒヤヒヤしながら走ったのは昨日のことなのだ。あんな怖い思いは二度とごめんである。
しばらくして前方に町が見え、ホッと息をついた。標識に《東河》という町名が書かれている。やがてその町に入ると、ごく小さな集落で、宿はあったが、食事処は少なかった。食第一の旅である。もう少し先の町、成功まで走ることにしようか。成功なら食事処も豊富にあるはずだ。

などと考えていると、《東河包子》という看板を掲げた店が現れた。包子とは中華まんのことだ。店の前に車が何台もとまり、人がいる。こんな田舎に行列のできる店が? とちょっと気になったのだが、いや、先を急ごう。夜は迫っている。このあたりは街灯がない。夜走るのは危険だ。昨日の今日なのだ。愚行は繰り返すまい。なんとしても明るいうちに町に着くのだ。と心に誓いながら、磁石に引っ張られるように、その店にフラフラと近づいていった。

 

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引きもきらず客がやってくる中華まん屋

 

肉まんを注文すると、店のおばさんは、もう売り切れだよ、と言う。じゃあ餡まんを、と言うと、それもないんだ、と眉尻を下げる。じゃあどれならあるの? と聞くと、おばさんは「酸菜包」を指した。それ以外はすべて完売らしい。もしかしてすごい店では? 期待がむくむくと膨らみ始め、その酸菜包を購入、店の前のベンチに座ってかぶりつくと、刻んだ高菜漬けとひき肉がぼろぼろわしゃあっとあふれ出した。

「納得!」

うまい! こりゃ完売するはずだ! ひき肉と高菜の歯触りがわしゃわしゃと小気味よく、甘辛い味付けの中にコクがあって、スキヤキを口いっぱいにほおばっているようだった。外側の生地はふわふわと甘味があって、主張の強い具たちをまろやかに包み込んでいる。

夢中で食べていると、また1台の車が店の前にとまり、「酸菜包」を買っていった。こりゃいかん。僕は食べている途中で売り台に駆け寄り、「もう1個お代わり!」と言った。ところがおばさんは「メイヨウ(なくなったよ)」とまたもや眉尻を下げるのである。いま完売したらしい。危ないところだった。数分でも遅かったら、先程の1個にもありつけなかったのだ。

僕は再び店の前のベンチに座り、酸菜包の残りにかぶりついた。
それからも見ていると、夕暮れのピンク色の空の下、次々に車がやってきて店の前でとまり、客は小走りで売り台に向かう。愛されている中華まんだなあと思う。客は注文した瞬間、あちゃあ、と顔をしかめ、トボトボと車に戻っていく。おもしろいように同じシーンが繰り返されるのである。まるでウィットのきいたコメディでも見ているようだった。平和だな、となぜか思った。

さっきまで何を焦っていたんだろう――。僕はベンチに腰掛けたまま、中華まんにありつけずに顔をしかめたり苦笑したりする人々を、草野球でも見るような気分でのんびりと眺めていた。

トロカツ
 
 

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