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2017年5月4日

◆◆◆◆ 《第452回》連載十年 ◆◆◆◆

 

本欄は先々週四百五十回に達した。連載開始からまる九年を超え、十年目に突入したことになる。昨年四百回に達した時、「五百回までは続けたい」と私は書いた。だから四百五十回は通過点ともいえるが、五十回を大きな単位と考えれば「ああもう一年経ったのか」という感慨はある。時間の経過が早く感じられるのは集中して書いている証拠でもあると同時に年を取った証拠かも知れない。とにかくここまで続けられたことを嬉しく思う。これもひとえに読者の方々のお陰である。前にも書いたが、「オンライン・ジャーニー」で毎週本欄を読んでくれている日本の方から時々感想を記した手紙が来る。そのような熱心な読者がいることを肝に銘じて原稿を書かなければならないと常々思っている。
この一年はイギリスにとっても世界にとっても波乱に満ちていた。時代は明らかに重大な転換点にさしかかっている。イギリスはEUを離脱し、新たな国のあり方を模索している。アメリカでは政治の経験のない大金持ちの実業家が大統領になり、国際社会をはらはらさせている。シリアでは政府軍と反政府軍とIS(イスラム国)が戦闘を繰り返す中、多くの人々が殺され、生き延びた国民も悲惨な生活を強いられている。ISによるテロは欧州大陸の国々だけでなく厳戒態勢を取っていたイギリスでも起きた。危険は私たちの周辺にまで及んでいる。
こうした状況を反映して本欄で取り上げる話題もいきおい政治に関する事柄が多くなった。もう少し明るくて楽しい話題を心掛けるべきと思いながら、次々に重大な事件が起きるのでそれを見逃すわけにはいかない。
私はしばしば日本のニュースも取り上げる。本欄のタイトルは「英国随想録」だから「看板に偽りあり」と言う人がいるかも知れないが、私はイギリスに住む者の視点から日本や日本人を考察したいと考えている。たとえば日本の大相撲である。この二十年ほど、大相撲は白鵬など外国人力士によって支えられて来た。その反動として日本には「日本生まれの優勝力士」や「日本生まれの横綱」を望む声が高まった。同じ日本人として気持ちは理解出来るが、それはともすれば行き過ぎた態度になって表れる。先月の春場所でモンゴル出身の照ノ富士に浴びせられた「帰れコール」もその一つである。これはヘイトスピーチあるいは人種差別の範疇に属する出来事だった。

 

 

私はイギリス在住の好角家の立場からなぜそのような現象が日本で起きるのか考察したい。考察の内容がそのまま「現代日本人論」になるからである。日本人の視点からイギリスや世界を考えると同時にイギリス在住の日本人の視点から日本のことを考える。それがこの「英国随想録」の特徴だといえよう。
私がイギリスにやって来て早くも三十年が経過しようとしている。その間に日本もイギリスも国の形がずいぶん変わった。
ことにイギリスはEU離脱を決めた影響からスコットランドが再び独立の動きを見せている。メイ首相は「真にグローバルな国を目指す」と言っているが、その前に国家分裂の可能性がある。
私はスコットランドの政党や労組や宗教団体が「憲政協議会」に拠り、平和的な方法で自治権獲得の成果をあげたことを評価しているが、独立を問う再度の住民投票にあたっては慎重でなければならないと思う。なぜならその影響はスコットランドの住民だけでなく連合王国の他の住民にも及ぶからだ。イギリスがEUと難しい交渉に入ろうとしている今、メイ首相を背後から脅かすような行為は慎むべきだろう。
私たちはイギリスのEU離脱の投票において無責任な情報で国民を煽る人たちを見た。景気のよいことばかり言って国民を誘導するのは世界の流行であるようだ。分離独立に言及するスコットランドのスタージョン行政府首相が今後どのような行動を取るのか注目したい。
堅苦しいことばかり書いたが、政治や経済がどうであろうと地球は回り、時間は経っていく。自然界に目をやれば桜や木蓮の花が風に散り、鳥たちは子育てに忙しい。いずれ世の中の動きが落ち着いたらそうした四季の移ろいも本欄でゆっくり取り上げたい。そのための材料はすでに用意してある。
最後になったが、連載開始の時から本誌の編集部にはいつもお世話になっている。彼らの協力がなければこのコラムをこれほど長く続けることは出来なかった。連載十年目突入にあたってとくにこのことを記し感謝の意を表したい。

在英二十余年のエッセイスト。商社や銀行勤務を経て、現在は執筆に専念。酒、旅、そして何より犬を愛する。

《第401回》
 

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