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2017年7月6日

◆◆◆◆ 《第461回》トランプ大統領とカーン市長 ◆◆◆◆

 
イギリスでは五月から六月にかけて四度もテロが起きた。最初はマンチェスターであとの三度はロンドンである。ロンドンのサディク・カーン市長はテロが起きる度にコメントを出し、市民に冷静な対応と連帯を呼びかけた。イギリスはじめ欧州各国で起きているのはいわゆる「ホーム・グロウン」と呼ばれる移民二世によるテロである。マンチェスターの劇場を襲ったのはリビア系の二世であり、ロンドン橋周辺を襲ったのはパキスタン系の二世だった。
昨年の選挙で保守党の候補に勝ってロンドンの市長に就任したカーン氏はパキスタン移民の二世でありイスラム教徒である。それだけに「ホーム・グロウン」のテロには人一倍心を痛めていると思われる。むろんそうしたテロが起きるのは彼のせいではない。しかしテロを彼の出自にむすびつけてとやかく言いたがる向きもいる。 
その代表格がアメリカのトランプ大統領だ。ロンドン橋周辺でテロが起きた翌日、カーン市長はロンドン市民に警戒を呼びかけるとともに「これから数日間、市内に警官の数が増えるが恐れる理由はない」とするコメントを出した。これに対してトランプ大統領は自らのツイッターで「七人が死亡し四十八人が負傷したのにロンドン市長は『恐れる理由はない』などと言っている」と批判した。
市長側は「警備強化について述べたことを曲解して批判した大統領に答えるよりもなすべき重要な仕事がある」と反論したが、トランプ大統領は「情けない言い訳だ。『恐れる理由はない』という発言について急いで説明しなければならなかった」と追い打ちをかけた。
双方のコメントを比較すればトランプ氏の言っていることが的外れであることは明白である。この大統領には人の発言の一部分だけを捉え、それを自分勝手に解釈して放言する悪い癖があるようだ。アメリカのサマーズ元財務長官がインタビューで「なぜホワイトハウスはロンドン市長への政治的攻撃を最優先したのだろう」と苦言を呈したが私も同感である。
カーン市長はテロの追悼集会で「私たちの地域社会を分断させようとして活気づく人たちがいる。トランプだろうと誰だろうと私はこのロンドンに対してそのようなことはさせない」と断言した。この言葉には市長としての強い責任と誇りが感じられた。


イスラム教徒を嫌悪するトランプ大統領のカーン市長に対する態度の悪さは今に始まったことではない。カーン氏が市長に当選した昨年五月、「イスラム教徒の入国禁止」を公約の一つに掲げアメリカの大統領選挙を戦っていたトランプ氏は「何事にも例外はある。カーン市長は例外としてアメリカへの入国を認める」と発言した。これに対してカーン市長は即座にこう反応した。
「それは受け入れられない。私だけでなく家族や友人や世界中に住む私と同じ生まれの人々に関わることだからだ」
先述したようにカーン氏はパキスタン移民の子である。バスの運転手だった父親はロンドンの低所得者用の公営住宅に住み六人の子供を育てた。カーン氏は苦学して弁護士の資格を取得した後、労働党の党員として政界へ進出した。彼が昨年、IS(イスラム国)によるテロが大きな脅威になっているさなかにロンドン市長に選ばれたのはロンドンという国際都市を象徴する出来事だった。
そのロンドンで今年、立て続けにイスラム過激派によるテロが起き、さらにその報復とみられるイスラム教徒へのテロも起きた。カーン市長の複雑な心中は察するに余りあるが、彼はそういうことをおくびにも出さず堂々と市長の務めを果たしている。市民の側からもテロと市長を結びつけた中傷誹謗の声はあがっていない。ロンドンの人々が市長の仕事ぶりを評価しているからだろう。
ロンドン市民の多くはカーン市長を批判したトランプ大統領に対して怒りを感じている。イギリス政府が大統領を国賓として招待することはメイ首相が先の訪米時に伝えたことであるが、国民の間には「あのような下品な男をエリザベス女王に会わせるわけにはいかない」という声が根強い。トランプ氏もまた「歓迎されないならイギリスへ行きたくない」と言っているらしい。いっそのこと大統領の訪英を先延ばしにしたらどうだろう。メイ首相もトランプ大統領もいろいろな問題を抱えており、いつまで今の地位に留まっていられるか分からない。そのうちに両国の首脳が別の人物に代わるということが起きるような気がする。

 

在英二十余年のエッセイスト。商社や銀行勤務を経て、現在は執筆に専念。酒、旅、そして何より犬を愛する。
 

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