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2017年2月16日

◆◆◆◆ 《第441回》トランプ大統領の訪英 ◆◆◆◆

 

先月、メイ首相が外国首脳の一番手としてアメリカのトランプ大統領と会談したのは周知の通りである。とりあえず英米の密接な関係を国際社会に示し、EU離脱後の二国間協定の足掛かりを得た。大統領を国賓としてイギリスに招待することも決まった。しかしイギリス国内にトランプ大統領を歓迎する雰囲気は全くない。大変な騒ぎだったオバマ大統領の訪英に比べればトランプの不人気は際立っている。いうまでもなくその理由は独善的な政治手法にある。
トランプ大統領は就任早々、シリア、イラク、イランなど中東七ヵ国の国民及び全ての国からの難民の入国を一時的に禁止する大統領令を出し、国際社会の顰蹙を買った。彼はこの措置を「テロリストから国家を守るため」と主張したが、指定された七ヵ国の国民とテロとの関連については具体的な説明がない。根拠もなく、単なる印象だけで命令を下したのならあまりにも軽率である。
さすがにアメリカは三権分立が機能しており、連邦裁判所が「違憲」と判断し大統領令を差し止め、控訴裁判所もこれを支持したが、トランプ大統領は連邦最高裁まで争う構えを見せている。さらに「命令を有効にする別の方法を考える」とも言っているから問題は尾を引きそうだ。
トランプ大統領のやり方に対しアメリカ国内はもちろんのこと、イギリスはじめ欧州各国でも抗議運動が起きている。先の訪米で「特別な関係」を確認したメイ首相だが、人権に関わる問題に沈黙することは出来ない。沈黙すれば自身に火の粉がふりかかるだけでなく、イギリスが国際社会で批判される。見解を糺された彼女は「入国禁止の大統領令には反対する」と言わざるを得なかった。
今、イギリスには「あのような大統領を国賓として女王に会わせるわけにはいかない」という声が渦巻いている。国会には国民から「招待を取り消して欲しい」という請願が百八十万件も寄せられ、議会で審議されることになった。
しかし、先述したように招待はすでに大統領に伝えられている。ここで取り消せば英米関係に悪影響が及ぶ恐れがある。EUを離脱し、単一市場と完全に絶縁すると宣言したイギリスにとってアメリカは数少ない頼るべき友邦である。大統領に出した招待を今更取り消すことは出来ないだろう。

 


ところがイギリス議会にトランプを強く嫌悪している政治家がいた。それはジョン・バーコウ下院議長である。国賓として来英した政治家はイギリスの議会で演説することが多い。当然トランプ大統領も演説することが予想されたが、これに関してバーコウ議長は次のように発言した。
「人種や性別によって人間を差別することに反対することや法のもとの平等を重視することは下院にとって重要だ。その意味でトランプ大統領が名誉あるイギリスの下院で演説をすることは適切ではない。私は強く反対する」
外国の政治家が下院で演説する場合、認可の権限を持っているのは議長である。ただ、それは多分に形式的なことだ。「中立公平」と法律で定められている議長が外交上の案件に口を挟むことは認められない。二〇一五年に国賓として訪英した習近平主席も議会で演説している。「多くの人権問題を抱える中国の主席の演説には反対しなかったのに、重要な友邦であるアメリカの大統領の演説には反対するのか」と言う人も少なくない。
バーコウ下院議長については以前から「議長の役目を逸脱した言動が多い」という批判がある。今般トランプ大統領の演説に異を唱えたことで保守党の議員から「自発的辞任」を求める声が高まると同時に不信任の動議が提出された。その矢先、今度は議長がレディング大学で学生たちに対し「私は昨年の国民投票で『EU残留』に投票した」と発言したことが明らかになった。個人としての投票行動は自由だが、それを公言することは中立の立場に反する。この発言が新聞で報道され、バーコウ議長はさらにきびしい立場に追い込まれた。
バーコウ議長の言動は確かに異例である。しかし、イギリスがアメリカに頼らざるを得ない状況にあってもなおトランプ大統領を痛烈に批判する態度は見上げたものだと思う。日本の安倍首相は入国禁止の大統領令を「内政問題」として一切批判せず、首脳会談ではひたすらお世辞を使って取り入った。そういう従属的な態度で対等な日米関係を築けるだろうか。「会談は大成功だった」と手放しで褒めちぎる日本のマスコミを見ていると私はとても不安になる。

 

在英二十余年のエッセイスト。商社や銀行勤務を経て、現在は執筆に専念。酒、旅、そして何より犬を愛する。
 

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