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【台湾編 60皿目】うまいけど微妙なエビマヨ

石田ゆうすけ
旅行作家。7年半かけて自転車で世界一周を敢行。9万5千キロ、87ヵ国を走り、2002年末に帰国。現在は全国各地で講演も行う。著書に『行かずに死ねるか!』『地図を破って行ってやれ!』ほか。2014年2月に最新刊『大事なことは自転車が教えてくれた』(小学館)を上梓。ブログも更新中→「石田ゆうすけのエッセイ蔵

帰国後すぐに自宅近くの病院に行って診てもらうと、台湾での診断結果と同じで、ぎりぎり手術しなくてもいいレベルとのことだった。ただし全快までは時間がかかるかもしれないという。肩の靭帯は3つあり、その2つが断裂しているらしい。
翌日から近くの整骨院に行ってリハビリを始めた。最初のうちは肩の可動域が広がっていくのを感じたが、1ヵ月ほどすると治癒の実感を持てなくなった。そこで整骨院を変えてみると、再び楽になったのだが、何回か通うと、またしても効果が感じられなくなった。
僕の中には焦りがあったのだろう。愛車を台湾の宿に置いてきたのだ。盗られる心配はないと思うが、どうも落ち着かない。やっぱり持って帰るべきだったか? いや、あのときの肩の状態だと、とてもそれはかなわなかった。しかし、いつになったら旅が再開できるんだ?
ジリジリしているうちに4ヵ月が過ぎた。いまだに肩の関節に小石がはさまったような違和感があり、右腕は以前の7割ぐらいまでしか上がらないのだ。僕は痺れを切らした。
「ええい、もうええわ! 台湾に行ったる! 自転車こいでリハビリすりゃあいいんじゃ!」
根拠のない話ではなかった。世界一周中も体調不良で寝込んだことは何度かあったが、それが長引くときは無理やり自転車で出発していたのだ。そのほうが宿で臥せっているよりずっと治りが早かったのである。
そんなわけで5月某日、僕は4ヵ月ぶりに台湾に降り立ち、台北の宿に入った。それから待ち合わせ場所に行き、Mさんと合流した。50年配の台北在住の日本人で、拙著の読者だという。本の感想をメールで熱く語ってくれ、僕が台湾を走ることをブログで知り、食事に招いてくれたのだ。台湾事情を聞くいい機会だとも思い、僕は同意した。

微妙な会食で食べたエビマヨ

彼と彼の友人が連れていってくれた店は、昔の台湾をイメージして作り込んだテーマパークのようなレストランで、雰囲気は最高だったが、料理の味はちょっとよくわからなかった。正直、日本で食べる中華とそう変わらない感じがした。もっとも、頼んだ料理にも問題があったのだろう。エビマヨなどはどこで誰が作っても同じような味になる気はする。
ただ、それより問題だったのは、会食自体が微妙な雰囲気になってしまったことだった。というのも、Mさんはある新興宗教の台湾支部で活動されている方で、それは別にいいのだが、彼の話があまりに神秘的なので、僕は次々質問してしまい、会食中ずっと宗教の話一辺倒になってしまったのだ。このあたり、僕が雑誌でインタビュアーの仕事をしているせいもあるのだろう。Mさんも伝道師としての性格から熱心に語ってくれた。そして僕の負傷した肩を、彼らのやり方――手を当てて血液を浄化する――で治療までしてくれたのだ。Mさんによると、これで医者いらずなのだという。子供たちの風邪や怪我などもすべてこれで治しているそうだ。Mさん自身、疑り深い性格だったが、学生時代にこの治療を受けて“奇跡”が起こり、信者となったらしい。
ま、そんなわけで、どうも当初の目的――僕はMさんから台湾の話を聞き、Mさんは僕から世界一周の話を聞く――からずいぶん逸脱して、気が付いたときには「今日はなんだったんだ?」と互いに首をかしげるような会食となり、料理の味もなんだかよくわからなかったのである。
余談だが、僕の肩には奇跡は起こらなかった。
週刊ジャーニーNo.997(2017年8月17日)掲載

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