徳川るり子の細腕感情記Ⅱ

何ゆえ、紅茶を受け皿から飲みますの?


徳川るり子

愛するお父様へ

前文お許しくださいませ。

先程、お電話で新年のご挨拶をさせていただいたばかりですが、あらためまして、明けましておめでとうございます。昨年のクリスマスと年末は、エドワーズご夫妻と過ごしたいというわがままを通してしまいましたこと、心からお詫びいたします。

さて、そのエドワーズご夫妻宅で行われたクリスマス・パーティーでのことです。

娘のサラさんご一家がクリスマス休暇を過ごしにいらしたので、久しぶりにお孫さんのソフィーちゃん&ニックくんに会えました(前回は日本に帰国しておりましたので顔を見ることができず、非常に残念だったのです…)。ソフィーちゃんはもうすぐ12歳になるお洒落な女の子で、ニックくんは「ポケモン」とサッカーが大好きな9歳の男の子です。そんな2人からのエドワーズ夫人へのクリスマス・プレゼントは、なんと自分たちで絵付けをしたというティーカップ! カップだけでなくソーサー(受け皿)にも色鮮やかな花々がたくさん描かれており、エドワーズ夫人はとても嬉しそうなご様子で「昔のように、ソーサーに紅茶を移して飲まなければいけませんね」とひと言。みなさま笑っておられましたが、わたくしは意味がわかりませんでした…。不勉強で恥ずかしい限りです。ソーサーから直接紅茶を飲んでいた時代があったのでしょうか? どうしても気にかかり、調べてみることにいたしました。

資料をあたりましたところ、ソーサーに紅茶を移して飲むというマナーが、実際に存在していたことがわかりました!

紅茶を飲む習慣は英国発祥と思われがちですが、17世紀にポルトガルから嫁いできたチャールズ2世の妻、キャサリン王妃が持ち込んだものとされております。当時、紅茶とは「中国のお茶」のことを示し、中国で数千年の昔から不老長寿の薬とされていたというお茶は、ヨーロッパでも貴重な東洋の秘薬と考えられていたそうです。ヨーロッパ諸国の中で、最初に中国や日本からお茶を持ち帰ったのはオランダでした。オランダでも初めは中国風の茶碗のような器(ティーボール)で飲んでいましたが、やがてソーサーを添えるようになったようです。そしてカップから直接いただくのではなく、ソーサーに熱い紅茶を一度移し、香りを楽しみながら少し温度を冷ました後、音をたてて(!)ソーサーから飲むのがエチケットだったのだとか。音をたてて飲むことは、今ではマナー違反とされておりますが、当時は紅茶を供してくれた主人への感謝の表現として広まっていたそうです。この習慣が英国やフランスなどヨーロッパにも伝わり、やがて現在のティーカップの型と、カップから直接飲むという楽しみ方が生まれたとのことでした。

そういえば以前、フランス系のカフェで、ティーポットとともに大きなティーボールとソーサーが運ばれてきたことがございましたが、昔のなごりだったのでしょうか…。

今回もまたひとつ、英国の習慣を学ぶことができました。それでは今日はこのへんで。お母様にもよろしくお伝えくださいませませ。今年もしっかり英語の勉強に励んでまいりますね!

かしこ
平成29年1月1日 るり子


とくがわ・るりこ◆ 横浜生まれのお嬢様。名門聖エリザベス女学院卒。元華族出身の26歳。あまりに甘やかされ過ぎたため、きわめてワガママかつ勝気、しかも好奇心(ヤジ馬根性)旺盛。その性格の矯正を画する父君の命により渡英。在英2年3ヵ月。ホームステイをしながら英語学校に通学中。『細腕感情記』(平成6年3月~平成13年1月連載)の筆者・徳川きりこ嬢の姪。