徳川るり子の細腕感情記Ⅱ

何ゆえ、英国ではサンタクロースをファーザー・クリスマスと呼びますの?


徳川るり子

愛するお父様へ

前文お許しくださいませ。

先週、わたくしが通う英語学校で、グループ対抗のクイズ大会が行われました。グループの代表者が1対1でクイズを出し合い、正解数が一番多いグループの勝利というルールです。「ヘンリー8世の妻は何人?」などの歴史から、「ロンドンの地下鉄の駅数は?」「ロンドンでもっとも長く放送されているドラマは?」といった雑学まで、様々な質問が飛び交いました。

わたくしの順番になり、どのような質問が飛び出してくるのかとドキドキしておりますと、尋ねられた問題は「英国ではサンタクロースを何と呼ぶ?」というもの。…サンタクロースに別の呼称などありましたでしょうか? 結局、答えられずに負けてしまいました…。ちなみに、正解はというと「ファーザー・クリスマス」とのこと。そういえば、そのような名前を耳にしたことがございます。大変悔しく、その日の夜はあまりよく寝つけませんでした。

それにしましても、一体なぜ英国ではサンタクロースではなく、ファーザー・クリスマスと呼ぶのでしょう? 悔しかったので(しつこいでしょうか…)、調べてみることにいたしました。

いくつか資料をあたりましたところ、実はサンタクロースとファーザー・クリスマスは別の人物ということがわかりました!

サンタクロースという名前は、オランダ語の「シンタクラース」を由来としています。シンタクラースとは、4世紀に実在したキリスト教の聖人「聖ニコラウス」のこと。貧しさに耐え切れず、娘に身売りをさせなければならないことを嘆く家族を見た聖ニコラウスは、真夜中にこっそりとその家を訪れ、窓から金貨を投げ入れて一家の困窮を救ったそうです。今でもオランダでは、シンタクラースから贈り物をもらえるのは、「聖ニコラウスの日」である12月6日の前夜だとか(もちろん25日にクリスマスも祝うそうですが、シンタクラースからの贈り物はないそうです)。19世紀に入ってこの風習が米国に伝わり、同国でシンタクラースはサンタクロースと名を変え、クリスマスの前夜に良い子にプレゼントを届ける存在になったようです。

一方、ファーザー・クリスマスは、太陽の復活と春の訪れを祝う喜びや希望を擬人化した妖精。英国北部のケルト文化の影響を受けた存在で、冬至の祝祭に姿を現し、酒盛りをして冬の終わりを祝っている人々に贈り物を届けてまわるそうです。かつては「お酒を持った陽気なおじさん」といった風貌で描かれていたそうですが、19世紀中頃から「慈愛に満ちた優しそうなおじいさん」というサンタクロースに似た姿に変わった模様です。欧州か米国から影響を受けたのでしょう…。

現在では、英国でもサンタクロースとファーザー・クリスマスは混同されがちとのことですが、厳密には微妙に相違があるとか。たとえば、サンタクロースは北極で暮らしていますが、ファーザー・クリスマスの家はフィンランドのラップランドにある山。また、サンタクロースは赤い帽子と服を身につけていますけれど、ファーザー・クリスマスは本来は緑色の帽子と服を着ているそうですよ!

両者の区別はほとんどつきませんが、その由来はまったく違うことがわかりました。ということは、わたくしが答えられなかったクイズは無効なのでは…? それでは今日はこのへんで。お母様にもよろしくお伝えくださいませませ。

かしこ
平成28年12月11日 るり子


とくがわ・るりこ◆ 横浜生まれのお嬢様。名門聖エリザベス女学院卒。元華族出身の26歳。あまりに甘やかされ過ぎたため、きわめてワガママかつ勝気、しかも好奇心(ヤジ馬根性)旺盛。その性格の矯正を画する父君の命により渡英。在英2年3ヵ月。ホームステイをしながら英語学校に通学中。『細腕感情記』(平成6年3月~平成13年1月連載)の筆者・徳川きりこ嬢の姪。