徳川るり子の細腕感情記Ⅱ

2016年10月6日

何ゆえ、トラファルガー広場には空の「第4の台座」がありますの?


徳川るり子

愛するお父様へ

前文お許しくださいませ。

お父様、お変わりございませんでしょうか? ここのところ、ロンドンでは朝晩急激に冷え込み、秋を飛び越して冬の気配を感じるようになりました。日の出も刻々と遅くなっており、ついに長い長い冬の季節がはじまってしまったのかと、溜め息まじりに思わずにはいられません。望んでこの国に住まわせていただいておりますのに、勝手なことなのですけれど…。さて、今日もご報告いたしたいことがあり、筆をとりました。

先日、久しぶりに友人のジュリア嬢と一緒にランチを楽しみました。ジュリア嬢は英語学校を一足先に修了し、今は閑静でおしゃれな住宅街、プリムローズ・ヒルにあるコーヒーショップで働いておられます。3ヵ月ぶりの再会でしたので、いつまでも話が尽きなかったのですが、わたくしが「この秋は美術館や博物館、ギャラリーなどにたくさん足を運ぶ予定ですの」と話しますと、トラファルガー広場の「第4の台座(Fourth Plinth)」を見に行くことを勧められました。ちょうどその前日に初披露されたようで、新聞やテレビなどで報道されていたのだとか。この「第4の台座」とは、一体どのようなものなのでしょう? 調べてみることにいたしました。

トラファルガー広場といえば、トラファルガー海戦を勝利に導いたネルソン提督の記念柱とそれを守るライオン像、噴水などが有名です。この広場は同海戦の勝利を記念してつくられたもので、中央のネルソン記念柱を中心に、四隅に当時の英雄たちの銅像を建てることが計画されたそうです。資料によりますと、4つの台座のうち3つに彫刻が飾られたとのこと。ひとつは当時の国王ジョージ4世の騎馬像、ほかの2つは1857年にセポイの反乱を鎮圧したヘンリー・ハブロック将軍と、インド駐留軍総司令官を務めたチャールズ・ジェームズ・ネピア将軍なのだとか。

そして肝心の4つ目の台座ですが、ここにはジョージ4世の弟で、のちの国王ウィリアム4世の騎馬像が飾られる予定だったそうです。ところが資金難に陥り、彫刻は制作されることがないまま、150年以上も空席だったとのことでした。空の台座をどうするのか、長い間議論が交わされてきたようですが、ついに1998年、ロイヤル・ソサエティ・オブ・アーツ(王立技芸協会)が現代アーティストによる彫刻作品の展示を提案。この企画は「第4の台座プロジェクト」と名付けられ、現在まで続いていることがわかりました。2003年からは公募形式が採用されており、4つ目の台座への設置が決まれば、1~2年ほどトラファルガー広場に飾られるようです。

今回、この台座に新しく展示されたのは、英国人アーティストのデヴィッド・シュリグリー氏による「Really Good」という作品。びっくりするほど長い親指を立てた右手の像で、通称「Thumbs Up」と呼ばれています。フェイスブックで使われる「いいね」ボタンを思い出させる彫刻で、現代生活を表しているのでしょうね。今秋のアート探訪第1弾として、まずはこの巨大像を見に行こうと思っている次第です。それでは今日はこのへんで。お母様にもよろしくお伝えくださいませませ。

かしこ
平成28年10月2日 るり子


とくがわ・るりこ◆ 横浜生まれのお嬢様。名門聖エリザベス女学院卒。元華族出身の25歳。あまりに甘やかされ過ぎたため、きわめてワガママかつ勝気、しかも好奇心(ヤジ馬根性)旺盛。その性格の矯正を画する父君の命により渡英。在英2年。ホームステイをしながら英語学校に通学中。『細腕感情記』(平成6年3月~平成13年1月連載)の筆者・徳川きりこ嬢の姪。