徳川るり子の細腕感情記Ⅱ

2016年10月13日

何ゆえ、フィッシュ&チップスはかように愛されておりますの?


徳川るり子

愛するお父様へ

お父様、お変わりございませんでしょうか? 早速ですが、本日も新たに学びました英国の文化について、ご報告いたします。

 先日、英語学校のサラ先生に教えていただいた、ショーディッチにあるフィッシュ&チップスのお店「Poppies」に行ってまいりました。「National Fish & Chip Awards」を獲得したことのある人気店で、お味は英国人のお墨付きとのこと。店内は混み合っておりましたが、タラの身はふんわり、衣はサクッとしていて脂っぽくなく、わたくしも友人も大満足でした。

フィッシュ&チップスといえば、イングリッシュ・ブレックファーストやロースト・ビーフ(サンデーロースト)とともに、英国を代表する伝統的な(?)食べ物のひとつ。後者の2品に比べて手軽でカジュアルな印象がございますが、一体なぜフィッシュ&チップスは、英国人にこれほど愛されているのでしょう? 調べてみることにいたしました。

さまざまな資料をあたりましたが、残念ながらフィッシュ&チップスがいつ誕生したのか、正確な記述を見つけることはできませんでした。しかし、フライド・フィッシュとチップスはそれぞれ異なる時代に生まれたことがわかりました。

まずはチップスですが、これはフランス生まれだそうです。じゃがいもを拍子木状に切って揚げたもので、「フレンチ・フライズ」という名称でヨーロッパでは知られています(米国では「フライド・ポテト」と呼ばれているのはご存知のことと思います)。フレンチ・フライズが英国に紹介されたのは18世紀で、その際に「チップス」と英国風の名称に変えられました。

一方、フライド・フィッシュの起源は謎に包まれています。ただ、1839年に発行された、ディケンズの著作『オリバー・ツイスト』の中で、フライド・フィッシュの倉庫が登場することから、この頃にはすでに広まっていたようです。産業革命を迎える前の英国では、傷みやすい魚は一般市民にとって「高嶺の花」。上流階級の人々だけが楽しむことのできる贅沢品だったとか。ところが、漁業技術や輸送手段の急速な発展により、魚の価格が急落。1850年代には、一般客を相手にフライド・フィッシュを販売する屋台が道端に並んでいたそうです。

このフライド・フィッシュとチップスが、いつ頃から組み合わされるようになったのかは諸説あるようですが、1863年にランカシャー地方で初めて「フィッシュ&チップス」として販売されたというのが、もっとも有力な説とのこと。それまではフライド・フィッシュはパンと一緒に売られていたそうで、チップスとの組み合わせは斬新だったことでしょう。珍しい魚に安価で栄養価の高いじゃがいも付き、さらに新聞紙に包んで持ち帰り手軽に食べられることもあり、労働者のあいだで瞬く間に人気商品になったそうです。

何やらまた、フィッシュ&チップスが食べたくなってまいりました…。次はマリルボーンにある「The Golden Hind」という老舗のフィッシュ&チップス店に足を運んでみたいと思います。それでは今日はこのへんで。お母様にもよろしくお伝えくださいませませ。

かしこ
平成28年10月10日 るり子


とくがわ・るりこ◆ 横浜生まれのお嬢様。名門聖エリザベス女学院卒。元華族出身の25歳。あまりに甘やかされ過ぎたため、きわめてワガママかつ勝気、しかも好奇心(ヤジ馬根性)旺盛。その性格の矯正を画する父君の命により渡英。在英2年1ヵ月。ホームステイをしながら英語学校に通学中。『細腕感情記』(平成6年3月~平成13年1月連載)の筆者・徳川きりこ嬢の姪。