徳川るり子の細腕感情記Ⅱ

2016年4月2日

何ゆえ、ブループラークは
設置されますの?


徳川るり子

愛するお父様へ

前文お許しくださいませ。

お父様、お変わりありませんでしょうか? 本日は、英国でしばしば目にする「あるもの」についてお知らせしようと筆を取りました。

ロンドンの街中を歩いておりますと、建物の外壁に青い円形のプレートが飾られているのをよく見かけます。このプレートには、白字で名前と西暦、肩書きのほか、「was born here」「lived here」「died here」と刻まれています。不思議に思って、エドワーズ夫人に尋ねてみましたところ、これらはブループラーク(blue plaque)といい、著名人がかつて居住していた建物や歴史的なできごとがあった場所に設置される記念プレートとのこと。ナイチンゲールやディケンズといった歴史上の人物や、ジョン・レノンなどの現代でも馴染みのある人物が暮らした家まで、ブループラークはさまざまな場所に飾ってあるそうです。

住宅地で突然このプレートに出会うことも多く、見つけた際にはとても嬉しくなるのですが、一方でそこに刻まれた名前がまったく知らない人物であることも珍しくございません。一体どのような基準で、ブループラークが設置されるのでしょうか? ブループラークを管理している「イングリッシュ・ヘリテージ(English Heritage)」に、思い切って問い合わせてみることにいたしました。

イングリッシュ・ヘリテージの広報担当者によりますと、ブループラークが設置される基準としては、対象となる人物の没後20年以上、あるいは誕生100年以上が経過していることが条件だそうです。さらに、その人物が「人類の繁栄と幸福のために重要な貢献」をしており、「傑出した個性」を持っていることも必須なのだとか。このブループラーク制度が発足したのは150年前の1866年、最初に設置されたのは翌1867年で、詩人バイロンの生家だそうです(オックスフォード・サーカス駅の近くだったそうですが、建て替え等により現存していないとのこと)。

また、ブループラークは偉大な功績を残した人物を讃えるためではなく、建物の歴史的価値を示すために設置されるようでした。物語上の人物であるはずのシャーロック・ホームズが住んでいたとされる、ベイカー・ストリートの221番地にブループラークがあるのは、この建物が世界的に有名だからなのですね。

現在、ブループラークはロンドンだけで900以上も設けられており、毎年20ほどが新たに設置されているとのこと。設置された時期によって、デザインが少々異なっていたり、色が緑がかっていたりするものもあるようです。英国外の著名人もブループラークの設置対象になっておりますので、夏目漱石が英国留学中に下宿したロンドンの家にもブループラークが飾られているとおっしゃっていました。

ちなみに、イングリッシュ・ヘリテージのウェブサイトでは、ブループラークの設置場所を調べることができます。日もだんだんと長くなってまいりましたので、次の週末にはブループラーク巡りをしながら、ゆっくりと散策したいと思っております。それでは今日はこのへんで。お母様にもよろしくお伝えくださいませませ。

かしこ
平成28年3月29日 るり子


とくがわ・るりこ◆ 横浜生まれのお嬢様。名門聖エリザベス女学院卒。元華族出身の25歳。あまりに甘やかされ過ぎたため、きわめてワガママかつ勝気、しかも好奇心(ヤジ馬根性)旺盛。その性格の矯正を画する父君の命により渡英。在英1年半。ホームステイをしながら英語学校に通学中。『細腕感情記』(平成6年3月~平成13年1月連載)の筆者・徳川きりこ嬢の姪。