英国のかわいい村々、美しい街、泊まってみたいカントリーホテルなど、
英国の観光スポットを中心に思わず行きたくなる場所を毎月ご紹介。
2007年10月号



 東ロンドンに位置するスピタルフィールズ・マーケットは、ロンドンを代表するマーケットのひとつ。北ロンドンのカムデン・マーケットと同様、「マーケット」といってもストール(露店)だけではなく、ショップやレストランなど、建物の中にある店をも含む広い区域を指すのが特徴だ。
 四年前から大規模なリニューアルが行われたスピタルフィールズ・マーケットには、オープンテラスのカフェ、センスの良いセレクトショップ、かわいらしい雑貨を扱う店などが新しく誕生し、いつもたくさんの人たちでにぎわっている。また、このマーケットのメインとも言える、コの字型の古い建物(Horner Buildings)に囲まれたオールド・スピタルフィールズ・マーケットには、洋服やアクセサリー、フード、雑貨、アンティークやアートなどを扱う小さなストールが所狭しと軒を連ねる。ここは、自分たちの作品を売るアーティストや、バッグや洋服のデザイナーらが数多く集うこと、そしてその商品のクオリティが高いことで知られており、ファッションに敏感な人たちやバイヤーが訪れる場所としてもその名を広めた。
 このスピタルフィールズ・マーケットをめぐっては、再開発を推進する企業と地元住民との間で15年に渡って交渉が続けられてきた。歴史的価値のある建物の保存を大前提に、大幅な景観の変化を避けたい近隣住民たち。一方、企業側は、開発は地元の雇用を生み、街の活性化につながると主張する。立場の異なる両者の利害関係の一致は難しく、また、90年代に起こった不動産価格の下落の影響で企業側が新事業への躊躇を見せた時期もあり、結果として決着がつくまでに15年という歳月が経ったのである。著明なアーティストやミュージシャンが再開発反対運動に参加したり、メディアでも頻繁に取り上げられたりしたので、ロンドンに長く住んでいる人ならば耳にしたことがあるかもしれない。最後まで強硬に反対し続けた人々もいたものの、結果的には大幅にリノベーションを行う方向となり、古い建物は取り壊され、近代的なオフィスビル、モダンなレストランやカフェなどが建設された。
 スピタルフィールズ・マーケットがこの地で市場として認められるようになったのは17世紀のことで、時の国王チャールズ二世が、食材を売る市民の台所としてオープンさせたのが始まりだった。それ以来、350年以上に渡って人々の生活になくてはならないマーケットとして地域に密接に根付いてきた。付近に多く住むユダヤ教徒に配慮し、長年に渡って土曜日(土曜日はユダヤ教の安息日)をマーケットの休みに設定しているのも、このマーケットが地元の人々と共に歩んできたことの証しだと言えるだろう。1990年代に入って、野菜や果物を売るメインのフード・マーケットはレイトンにあるニュー・スピタルフィールズ・マーケットに移されたものの、長くこの地に住む地元住人の中には、現在も尚、スピタルフィールズ・マーケットを特別な存在として見る人たちも多い。
 大規模な再開発により、現在は文字通り新しく生まれ変わったスピタルフィールズ・マーケット。今回は、リニューアルされたマーケットを細かく紹介していくので、次回マーケットを訪れる時の参考にしていただきたい。

●サバイバー●取材・執筆・写真/本誌編集部