ロンドンを歩いていると、カタカナや漢字をあしらった衣服を身につけているノン・ジャパニーズの人々をよく見かける。文字は意味をなさないものがほとんどだが、デザインとして楽しんでいるらしい。近頃は和食ブームで日本食レストランも増え、箸を器用に使って寿司をほおばる英人も多く、なにやら日本通であることはカッコイイという風潮さえある。
マンガやアニメを筆頭に、ゲーム、映画、音楽、ファッションなど、いわゆる日本のサブカルチャー(以下サブカル)*が注目される機会も多く、日本人としてくすぐったいような、それでいて鼻が高いと感じる瞬間も少なくない。BBC3で放送されたジョナサン・ロスがプレゼンターの「japanorama」やITV2のケリー・オズボーンによる「Kelly
Osbourne turning Japanese」などの番組はその代表格で、偏った視点の番組という批評もあるものの、「ガイジン」が日本のサブカルに多大な興味を示している好例といえる。
日本のサブカルを「クール(cool=カッコいい)だ」とする現象は今に始まったことではなく、アジア、アメリカ、ヨーロッパでは数年前から起きていた。その火付け役となったのが、米ジャーナリスト、ダグラス・マッグレイ氏。彼は2002年「Japan's
Gross National Cool」という論文の中で、政治的、経済的に振るわない状況に陥った日本が、文化面で新たな「スーパーパワー」を発揮していると指摘し、「国家の文化的なカッコよさ」で日本は他国に勝ると評した。これを機に「クール・ジャパン」とか「ジャパニーズ・クール」という言葉が使われるようになり、「日本好き!」「日本かわいい!」とする風潮が世界中に広まったとされる。
この動きに日本政府もすかさず乗じ、03年には「知的財産戦略本部」なる機関を設置し、マンガやアニメ、映画、ゲームソフト、音楽などのコンテンツ**はわが国の重要な「知的財産」であり、日本を牽引する新産業だとして支援を始めた。その甲斐あって、日本のいわゆるオタク文化の象徴であったマンガ、アニメ、ゲームなどが世界で「クールなもの」に昇格したのである。
とくに海外の若者を中心に浸透していった「クール・ジャパン」は、インターネットのおかげで、さまざまな日本のサブカルを凄まじいスピードで貪欲に取り込むことになった。今はJ-Rock(Japanese
Rockの略)やコスチューム・プレイ(以下コスプレ)といったものがアニメやゲームに続いて人気で、アニメを見ていたファンがアニメソングからJ-Rockを聞くようになり、アニメのキャラクターやJ-Rockのメンバーを真似た格好をし、コスプレを楽しむというように派生している。さらに、これらのサブカルファンには日本の伝統文化を愛し、日本語を勉強している人も多く、サブカルに始まりハイカルチャーや歴史にまで関心が高まっているという事実も見逃せない。
ヨーロッパにおける「クール・ジャパン」は、フランス、ドイツ、イタリア、スペインでとくに活発で、英国はヨーロッパ諸国の中でも遅れをとっているといわれている。しかし、今回ロンドン各地で開催されているイベントを取材し、いよいよその波が大きくなっているのを感じた。
今月は、今後さらに成長していくことが予想される「クール・ジャパン」を、アニメ・漫画、J-Rock、コスプレに大別して紹介する。
*サブカルチャー:絵画や純文学、クラシック音楽などのハイカルチャーに対し、娯楽を主目的とするマイナーな趣味的文化を指す。マンガ、アニメ、コンピュータゲーム、特撮作品、フィギュアといった「オタク文化」をも指す。
**コンテンツ:動画・静止画・音声・文字・プログラムなどの表現要素によって構成され、様々なメディア上で流通する映像・音楽・ゲーム・図書などの情報内容。
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